世田谷線に乗って。
中学3年の夏、
世田谷線で西太子堂に毎日通った。
城南指導教室という塾に
通うためだった。
この塾の主宰者は、とても太っていた。
最近、テレビによく出てくる
あの有名人に似ている。
S田先生だ。
家から下高井戸まで歩き
世田谷線に乗る。
とにかく、受験が終わるまで
毎日通った。元旦もだ。
S田先生は数学の授業で
よくこう叫んだ。
「因数分解、どこまでやるの!」
すると生徒たちはこうこたえる。
「できるところまで!」
おしゃべりをしていると、
チョークが飛んでくる。
とてもコントロールがよかった。
毎日、テストテスト。
教室は、夏暑く、冬寒かった。
冷房め暖房もなかった。
でもS田先生はいつも
白いランニングシャツだった。
あの夏と冬がなかったら、
違う人生になっていただろう。
記憶をもとに塾があったはずの
その場所に行ってみた。
わからなかった。
家ばかりでわからない。
どこにあったんだろう。
庭に大きな欅の木があったはずた。
とても出入口は狭く、
S田先生は横にならないと通れない。
世田谷線に乗るたびに、
S田先生を思い出す。